写真 柳詰有香
自然、詩、料理のフォトブック『Circle』 |
東京近郊に生まれ、京都に移り住んでいる 33 歳の独学料理人―今井義浩氏は、自然、詩、料理のフォトブック『Circle』を上梓、季節の風景や旬の食材で作った料理を織り込んでいます。氏はキッチンだけでなく、農地にも足を運び、その色彩と味を皿の上に表現するのです。以下は今井氏へのインタビューです。
幼い頃から料理人になりたかったのですか??
子供の頃は科学者に憧れていました。大学生の時、天然酵母でパンを作ったんですが、何度も両手で生地をこねるうちに、食への興味がわいてきたんです。2006 年から 2014 年までレストラン「エンボカ」(enboca)に入り、旬の食材で季節感の移り変わりを表現しました。それからレストラン「ノーマ」(Noma、注1 )のレシピ本に触発され、コペンハーゲンで短期間修行もしました。現在、準備しているレストランは、農家を応援し続け、自然と食材への関心を表現しようとするものです。
京都に住むことは料理の創作になにか影響がありますか?
古都に住むことで人は謙虚になり、今でも初めて訪れた時のようにこの都市に驚嘆しています。「この間、京都で新しいことがあったのは戦前じゃないですか」と地元のお年寄りは言います。山際にある東山区にいると、自分自身も、作った料理も、いつのまにか京都に染まっているように感じます。窯焼き柿という料理は、コペンハーゲンでは梨を使いましたが、京都では秋が旬の柿を使い、色も京都の秋の色彩を映し出しています。京都では、歴史や伝統文化と現代が共存している驚き、そして農家の産直市場でのコミュニティ、さらに料理の師匠との近しい付き合いが、私を京都に留まらせているのです。
写真 柳詰有香
窯焼き柿という料理は、コペンハーゲンでは梨を使うが、京都では秋が旬の柿を使い、色も京都の秋の色彩を映し出す。 |
農作業への参加は料理にどんな影響がありますか?
食は、都市に生活する上で地域に最も親しめるものです。私は小さい頃から祖父と水戸市の畑で植物に親しんできましたし、今も京都の大原の青年農家コミュニティに参加し、共に農業に関連したさまざまなことをしています。料理が合唱なら、私はただの指揮者で、料理の色、香り、質感は大自然が育んだ食材そのものがもたらしてくれるもの。ふだんの食事で食べる米も、義父が作ったもので、私は鋳鉄鍋で炊き、米のうまさを引き出しています。最もいい料理は手先の技ではなく、口にすると食材と人そのままの味が感じられることです。
写真 柳詰有香 京都大原の比叡山のふもとにある村落は、思い出の中の祖父の農園と似ている。ここは新鮮な食材が買え、料理に添える野の花や木の枝もある。 |
『Circle』はどんな反響がありましたか?
さまざまな時間や空間を旬の食材で彩れば、同じ料理も多様な姿になるので、レンズを通さないと料理のその一瞬が記録できません。だから『Circle』を出版したのです。でも、台北やニューヨークなど世界から注目されるとは思いませんでした。それから日本各地で屋上菜園、ギャラリー、魚市場、博物館などでポップアップ・レストラン(注2 )の料理を楽しむイベントをし、自然と食べ物へのまなざし、私たちの短い一生が食を通じて悠久の歴史とリンクすることを伝えようとしました。
台北へ来たことは?台北で行きたい所、食べたいものは?
台湾は生命力に満ちています。まだ行ったことはありませんが、ぜひいつか行ってみたいですね。台北では市場や地方の小吃(台湾の B 級グルメ)の店をぶらついたり、詩や手工芸品があるアートな場所へ行きたいです。それから漬物と醗酵物に特に興味があります。どこでも独特の食材と保存方法があるので、海外を訪れるといつも気になるんです。
注
1. Noma:デンマークのコペンハーゲンのミシュラン 2 つ星レストラン。2010 年、2011 年、2012 年、2014 年と世界最高のレストラン第 1 位に輝いた。
2. ポップアップ・レストラン:別名ゲリラ・レストラン、正式でないレストランで、期間も地点も何でもあり、唯一無二の食の体験を提供する。
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